マイナンバー相続関係手続に必要な戸籍事務へ利用範囲を拡大へ
法務省はこのほど、税と社会保障、災害対策の各分野で個人番号を利用できるマイナンバー制度の利用範囲に「戸籍事務」を加える方針を明らかにしました。法務省では8月1日までに開かれた2つの有識者会議が最終報告書をまとめており近く発表します。法務大臣が9月中旬に予定される法令審議会で諮問し、今秋から約一年かけて議論。政府は法制審の答申を受けて、平成31年の通常国会で戸籍法や番号法の改正法案の提出を目指します。
戸籍事務がマイナンバーと連携すれば、婚姻の届出や児童扶養手当の請求、老齢年金請求、相続関係における行政手続きにおいて、マイナンバーの定時により本籍地のみで発行していた戸籍証明書(謄本、抄本等)の添付が不要となるなど行政手続きの簡素化が図られるでしょう。
■戸籍事務は番号法施行後3年以内の検討事項
番号法は平成27年10月5日に施行。マイナンバーの利用範囲については、税・社会保障・災害対策の分野で認められていますが、番号法附則第6号において、番号法施行後3年を目途として、番号法の規定について検討を加え、必要があると認めるときは所要の見直しを行う事を定めるとともに、番号制度の導入に伴い政府の検討事項を規定しています。
政府は、全国知事会等において戸籍事務をマイナンバーの利用範囲に追加を求める強い要望などを踏まえ平成27年6月の日本再興戦略や世界最先端IT国家創造宣言等において「平成31年通常国会をめどに必要な法令上の措置を講ずる」方針を盛り込んでいました。
法務省では、有職者会議として、平成26年10月に「戸籍制度に関する研究会」を設け、翌年6月には「戸籍システム検討ワーキンググループ」を設置。それぞれで戸籍事務へのマイナンバー制度導入のためのシステムの在り方に係る調査・研究について議論を重ね、同WGは今年7月28日、同研究会は今年8月1日にそれぞれ最終報告書をまとめています。
■電算化以前の相続関係手続は、当面情報連携せず
法務省によると、戸籍事務については平成6年度の戸籍法改正によりコンピュータ化が可能となり、市区町村ごとに電算化が順次行われ、平成28年度末までに1,896市区町村のうち1,892市町村(約99.79%)が電算化していますが、市区町村の独自のシステムなので、文字コードも異なり、自治体間では連携できていません。また、マイナンバー制度において行政機関同士でやりとりする「情報提供ネットワークシステム」では、個人を特定する4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を直接やりとりすることはできません。
このため、有識者会議による最終報告書では、法務省は大規模災害時のバックアップとして全国2か所に集約している既存の「戸籍副本管理システム」の活用を提案。情報連携に当たり、法務省は戸籍副本管理システムを利用して、文字コードの統一や情報の記号化など情報を整備することにより、マイナンバー連携用の「戸籍情報連携システム」(仮称)を構築する方向で検討を進めます。相続関係手続で必要となるケースが多い電算化以前の過去の除籍等については、紙や画像データで管理されています。画像データの電子化には膨大なコストを要するため、マイナンバーによる情報連携の対象は電算化された戸籍とします。電算化以前の除籍等が必要となる手続き(相続等)については「当面の間、情報連携の対象としない」ことから、電子化以前の除籍等については、従来どおり本籍地の市区町村のみで交付します。
■本籍地への戸籍証明書の取得が不要
マイナンバーの利用範囲に戸籍事務が拡大することで、パスポートの申請や戸籍の届出、年金等社会保障給付関係、相続関係等など戸籍証明書の添付が必要な手続きにおいて、戸籍証明書の添付が不要となります。
例えば、児童扶養手当の受給等に戸籍証明書の添付が必要となるケースがあります。親と子で戸籍が分かれている場合には、本籍地の戸籍証明書や、除籍証明書の取得など複数の証明書が必要となり、郵送による戸籍証明書の取得に4日~7日程度の時間を要します。マイナンバー導入後、申請者は、個人番号を指示するだけで「戸籍情報連携システム」により行政機関が親子関係を確認できるようになり、戸籍証明書の添付が不要となります。
また、婚姻等の届出のケースでは、男性と女性がそれぞれA市とB市で異なる本籍地で、新しい本籍地をC市とする場合には、A市とB市に郵送等により戸籍証明書を取得して届出する必要がありますが、システム整備後は新本籍地でマイナンバーを提示することにより、「戸籍情報連携システム」から情報を基に戸籍を作成できるので、戸籍証明書の添付が不要となります。
ただし、法務省は、個人情報保護などセキュリティー対策として、申請者本人に係る特定の戸籍情報の提供にとどめる仕組みの構築を検討中です。