代償分割の方法による遺産分割に係る税務(2/2)
■代償分割とその相続財産を譲渡した場合の相続税の取得費加算の特例の適用
相続または遺贈(死因贈与を含む。以下、相続等)により取得した不動産や株式などを、相続税の申告期限から3年以内に譲渡した場合、その譲渡所得の金額の計算上、相続税額のうち一定金額を取得費に加算します。なお、取得費が概算取得費による場合であっても、当該概算取得費に加算します。
また、代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合(先述の甲がX土地を譲渡した場合)、譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算する相続税額は、以下の通り計算する。
代償財産を交付した者に係る相続税は、先述のとおり、代償財産の価格を控除した課税価格を基に計算されます。したがって、そのまま計算を行うと、取得費に加算する相続税額が、その者の相続税額を超えることとなるため(分子>分母)、上記のとおり調整を行うものです。
なお、支払った代償金は、X土地の取得費に含まれない事に留意します。
代償財産を自己所有の不動産により交付した場合(先述の甲が乙にY土地を代償財産として交付した場合)、その不動産は相続税等により取得した者ではないため、その譲渡所得の金額の計算上、本特例の適用を受けることは出来ません(ただし、Y土地が相続税東により取得した者である場合など本特例の要件を満たせば適用可)。
また、代償財産の交付を受けた者が、代償財産として交付を受けた不動産を譲渡した場合(先述の乙がY土地を譲渡した場合)、代償財産として交付を受けた不動産は、代償債権の弁済として取得したものであり、相続等により取得した財産ではないため、その譲渡所得の金額の計算上、本特例の適用を受けることができません。
■代償分割と換価分割
換価分割は、共同相続人が相続により取得した財産の全部または一部を金銭に換価し、その金銭を分割する方法です。したがって、例えば、不動産を換価分割の対象とする場合、共同相続人が相続した不動産を未分割の状態のまま売却(換価)することとなるため、その譲渡所得は各共同相続人に帰属します。なお、この場合、要件を満たせば、それぞれが相続税の取得費加算の特例の適用を受けることができます。
一方、代償財産を交付する者が、代償分割により取得した不動産(財産の現物)を売却して、その売却代金を交付することにより代償債務を履行する場合(代償分割の趣意からは外れますが、実務上このような場合もあります)、その売却は遺産分割と歯別の行為であり、その売却に係る譲渡所得は、取得した不動産(財産の現物)を売却した者に帰属します。なお、この場合、要件を満たせば、相続税の取得費加算の適用を受けることができます。
このように、遺産である現物の財産を売却して共同相続人間で金銭の交付を行う場合、その金銭の交付が換価分割として行われたものであるのか、代償分割による代償金の交付であるのかについて、譲渡所得の帰属や課税上の特例の適用にも影響を与えるため、遺産分割協議書において遺産分割の方法を明確にしておく必要があります。