相続における借金・保証人の話(4/4)

前回の続き

 

《相続放棄の影響》

 

 相続放棄をすると、相続放棄をした相続人は被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も一切引き継ぎません。子が全員放棄をすれば第二順位の父母へ、父母がともに放棄をすると第三順位の兄弟姉妹に相続権が順送りされます。

 

《相続放棄と詐害行為》

 

借金を多く抱えていた被相続人の相続について、配偶者および第一順位から第三順位までの相続人がすべて放棄をすると債権者は債権を回収することができなくなります。これは、詐害行為となるのでしょうか。

民法では、債務者が債権者を害することを知りながら行った法律行為(詐害行為)の取り消しを裁判所に請求することができるとしています。詐害行為とは、例えば多額の借金を抱えた者が債権者からの差し押さえを受ける前に、唯一の財産である不動産を知人に贈与して、債権者の債権回収を阻むような行為をいいます。詐害行為取消権とはその知人への贈与を取り消させるというような債権者の権利です

最高裁の判断では、詐害行為取消権の対象となる行為は財産権を目的とした行為に限られ、相続放棄という身分行為については、他人の介入によってこれを強制すべきではないものとしています。もしも、相続放棄を詐害行為として取り消すことができるのであれば、相続人に対して、相続の承認を強制することと同じ結果となり、それは不当であると最高裁も判断しています。

では、自宅の土地建物を相続時精算課税により贈与しており、父の死亡時に父の借金から免れるために相続を放棄するという行為は詐害行為となるのでしょうか。この場合、贈与時すでに父が多額の借金を抱えていれば、借金を免れるための詐害行為と判断されて贈与が取り消される可能性があります。しかし、贈与のあと、借金を重ねた結果、相続を放棄したのであれば、「債権者を害することを知ってした法律行為」ではないため、詐害行為とはなりません。

 

《放棄できない連帯保証人としての義務》

 

注意しなければならないのは、相続人が被相続人の債務の連帯保証人になっているケースです。例えば、父が借金をする際に長男が連帯保証人となっていた場合、父の相続時に長男が相続放棄して父の借金からは免れることができます。しかし、長男自身の連帯保証人としての義務は放棄できないので、弁済義務を免れない可能性があります。