富裕層に対する課税強化について(2/2)

 マイナンバーに代表されるように、税務当局は、納税者の収入や財産に対する監視の目を強めています。特に富裕層に関しては、海外との取引を利用しての脱税行為が後を絶たないため、国際的な連携のもと、課税強化に努めているようです。相続税や消費税、所得税が増税路線にあるなかで、課税漏れがあっては、不平等が生じることからの要請でもあります。今回は、主に富裕層の財産や取引を捕捉するための制度を紹介します。

 

【支払調書制度】

 

  国境を越えて資金等が移動することで、海外への資産隠しや海外での所得隠しにつながることを防ぐ目的で設けられている調書制度があります。

 

①海外送金等調書

金融機関を通じて、1回あたり100万円を超えて国内から国外への送金や、国外から国内への入金がある場合に、金融機関から提出されます。

 

 ②国外証券移管等調書

  平成26年度税制改正において、国外証券移管等調書制度が創設されました。これは、平成27年1月1日以後、証券会社等の金融機関を通じて、有価証券が国内証券口座から海外証券口座へ移管されたり、国外証券口座から国内証券口座への受け入れがなれたりした場合に提出されるものです。この調書は国外送金等調書と異なり、有価証券がの価額にかかわらず、すべての取引において提出されなければなりません。

 

【国際間の情報交換制度】

 

 国際的な脱税に対処するため、租税条約に基づく外国税務当局との情報交換制度があります。

 ①自動的情報交換

  自動的情報交換は、源泉徴収などの情報から把握した海外への支払等(配当、不動産所得、給与・報酬、キャピタルゲインなど)に関する情報を支払匡の税務当局から、受領国の税務当局へ一括して送付する制度です。国税庁では、外国税務当局から自動的情報交換により提供を受けた利子、配当等に関する情報と、申告内容を照合し、内容に疑義が生じた場合は、この情報を税務調査などに活用しています。

 ②自発的情報交換

  自国の納税者に対する調査等の際に入手した情報のうち、外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供する制度です。

 ③要請に基づく情報交換

  個別の納税者に対する調査において、条約締結国の税務当局に情報の収集、提供を要請する制度です。

 

【超富裕層プロジェクトチームの立ち上げ】

 

 国税当局は、「超富裕層プロジェクトチーム」を組み、課税の強化体制を整えつつあります。東京・大阪・名古屋の3つの国税局(静岡県・愛知県は名古屋国税局の管轄です)では、平成26年から資産規模の大きな超富裕層についての専門のプロジェクトチームを立ち上げました。

 この超富裕層プロジェクトチームの目的は、超富裕層に対する個人の所得税、相続税だけでなく、その経営している法人や海外の取引を含めて中長期的、総合的に調査できる体制を整えることです。

 特に、国税庁側からみて重要な「重点管理富裕層」(非公開)にリストアップされた者は、本人だけでなく家族や、経営している法人も含めて継続的に名簿で管理されます。なお、本人にはリストアップされていることは通知されません。

 そして、重点管理富裕層のなかでも特に問題があり、調査が必要と考えられるようであれば、海外の税務当局との情報交換も含めて多角的に情報を集めて分析し、調査が企画されることになります。