円滑な相続のために知っておきたい手続き(1/2)
最近では、相続セミナーが多く開催されていますが、遺言者の必要性や相続税対策など、いわゆるもめない相続のためのテーマが多いです。しかし、実際の現場では、円滑に相続を進めるために必要な作業や手続き、被相続人生存時の生活から遺族の生活に移行するにあたり必要な手続きを知らないケースや失念するケースも少なくありません。財産だけでなく生活の継承も含め、ポイントとなる手続きを押さえておきましょう。
■やるべきことを整理し、まずは使えるお金の確保を
被相続人が亡くなると金融機関の口座が凍結されますが、葬儀費用のほか各種清算等の立て替えなど一連の支払いだけでもそれなりの金額になります。遺産分割協議をもって凍結の解除を待つと時間がかかりますが、妻が遺された場合、立て替えられるだけの貯金がない人も少なくありません。一般的には香典と貯蓄でまかぬことが多いですが、最近は家族葬や直葬なども増え、香典が入らないケースも多いです。このような場合、生命保険金による現金の確保が比較的時間も手間もかからずに準備が出来ます。
葬儀準備と併せて保険金請求をしておけば、特に不備がなければ通常5営業日程度で振り込まれます。落ち着いてから請求しようと思っている方も多いと思いますが、当座の生活費のことを考えても早めの請求を促すメリットは大きいです。
■相続に関する情報収集(1)
相続を進めるに当たり、まず必要となるのは相続人や相続財産の確定、遺言書の有無の確認ですが、この情報収集方法についても、注意は有益です。
相続人の特定には被相続人出生時からの戸籍が必要となります。本籍地の市区町村の役場で請求することになりますが、遠方の場合などは郵送を依頼することも可能です。ただし、入手した戸籍が出生時からの物でない場合は、戸籍をさらに遡らなくてはいけません。通常であれば戸籍謄本、改製原戸籍、除籍謄本などを収集することになりますが、「出生時から」ということや、改製原戸籍、除籍謄本を知らず、なかなか必要な戸籍がそろわないケースも多いです。
戸籍法という法律がありますが、戸籍法の改正により戸籍の様式などが変更になる都度、新様式の戸籍に書き換えが行われます。この書き換え前の戸籍を改製原戸籍といいます。例えば、離婚によって母(妻)と子が戸籍から抜けると、父(夫)の戸籍にはバツ印や離婚の記載がされます。ところがその後改正があり、新様式で書き換えられた父(夫)の戸籍には、離婚の記載も母(妻)と子がいた記録もありません。つまり、原状の戸籍のみでは子の存在が正確に把握できません。したがって改製原戸籍も必要になります。しかし、改製原戸籍が被相続人の出生時の戸籍でなければ、さらに遡る必要があります。
また、結婚や離婚、死亡などで戸籍から出ていき、戸籍内の人が誰もいなくなったという状況も当然起こります。このような戸籍は閉鎖されますが、この状態の戸籍を除籍といい、その写しを除籍謄本と言います。例えば、被相続人の父母の戸籍に被相続人の出生の記載がありますが、被相続人が結婚して父母の戸籍から出ていきます。その後被相続人の父母が亡くなれば、その戸籍は誰もいなくなり除籍となりますが、この戸籍に被相続人の出生の記載があったわけなので、被相続人の出生時まで遡るとなると、この除籍謄本も必
要となります。ここまでそろって、被相続人の出生時から現在の戸籍までがつながったことになり、相続人の確定ができます。
なお、(配偶者の有無にかかわらず)被相続人に子どもがなく、被相続人の兄弟姉妹が相続人になる場合は、自分たち以外に相続人となるべき兄弟姉妹がいないかを確認するため、被相続人の親の出生時から死亡までの戸籍、および兄弟姉妹の戸籍も必要となります。
また、既に死亡している相続人がいた場合は、その相続人についても出生時から死亡までつながった戸籍が必要です。相続人が亡くなっていると、その子が代襲相続人となりますが、まずは代襲相続人確定のために前述同様の手続きが必要となるからです。日常生活において、まず取り寄せることがない改製原戸籍などについては、単に「必要」と伝えるだけではなく、相関図などを用いて依頼をすると、単なる単語の説明だけでなく、入手の目的も理解でき、遺族の作業効率を高める一助となります。ケースによっては兄弟姉妹の協力も仰ぐ必要があるため戸籍収集において早めに動くことが肝要です。